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Hard-boiled or soft-boiled

ファインモーション

◎『栄光と挫折の日々』
 あの輝きはどこへ消えたのか。
 古馬になってからの競走生活から、
 この馬は一体何を得たのか。

 ファインモーションという
 馬を語る際には育ての親である
 伊藤雄ニ調教師を語ることを
 避けては通れない。

 彼はファインをこう言った。

 「これまで育ててきた
  馬のいいところをすべて持っている」

 これまで育ててきた馬というのは
 マックスビューティ、シャダイカグラ、
 ダイイチルビーそしてエアグルーヴという
 競馬史に残るビッグネームのことだ。

 たしかに秋華賞、エリザベス女王杯を
 楽勝し、有馬記念で3歳牝馬ながら
 一番人気に推された頃は、
 世間もその発言に納得していた。

 あの頃、この馬は
 ファンが夢を見れる馬だった。

 しかし、その有馬記念で
 折り合い面の不安を露出させ、
 初めての敗北を喫すると、
 あとは転落の一途を辿った。

 夢は夢のまま、現実化することはなかった。

 なぜこの馬の競走馬生の歯車は狂ったのか。
 それはいつどこで、そして
 一体誰が狂わせたのか。

 デビューからここまでの軌跡を振り返る。

 2001年12月1日、映画の日。
 2000メートルの新馬戦で、
 なんと1.1倍の支持を得て、
 牡馬相手に楽勝する。

 しかし、直後に骨折が判明する。

 この時の体重は488キロ。
 特に太くも細くもない理想的な体重。
 そしてレース内容はスピードの違いで
 逃げる形になって直線は突き放す楽勝。
 特に脚に負担のかかる内容でもない。

 12月というデビューも
 無理矢理足元の固まっていない馬を
 使ったという印象ではない。

 この骨折は不可抗力だろう。

 そして、春のクラシックを棒に振り、
 夏の北海道でレースに復帰する。

 3歳上500万下では5馬身差、
 続く1000万下の阿寒湖特別でも5馬身差、
 牡馬のそれも古馬が相手なだけに
 この圧勝はファンに衝撃を与えた。

 これだけの力があるのだから、
 目指すは当然、G1秋華賞。

 秋になって中央場所のローズSを使う。
 ここでも圧勝し、最初の方で述べた秋華賞、
 エリザベス女王杯を完全制圧につながる。

 この辺り、ローテーションがやや詰まっているが、
 牝馬は好調期が一般に短いとされるので、
 続けて使うことも正当化される。

 骨折こそあったが、
 ここまでの成績はパーフェクト、
 レース内容も文句のつけようがなかった。

 いよいよ伝説の牝馬になってしまうのかと
 3歳にして天皇賞を勝ったシンボリクリスエスを抑え、
 堂々一番人気で迎えた有馬記念。

 これまでいい感じで先行して
 直線で大きく差を広げて勝つレースをしてきた
 この最強牝馬はスタートしてしばらくすると
 先頭を走っていた。

 秋華賞、エリザベス女王杯と
 ユウキャラットというオークスで
 3着した逃げ馬がいいペースで引っ張り、
 ファインモーションにとっては
 格好のペースメーカーとなっていた。

 しかし、この有馬記念では、
 まだ後にジャパンカップを逃げ切る
 タップダンスシチーも逃げ馬というわけではなく、
 他にもこれといった逃げ馬はいなかった。

 豊かなスピードが初めて諸刃の剣になった。

 しかも、落ち着いたところで、
 勝負師佐藤哲三がまだ弱いタップダンスを
 ファインに絡ませ、途中で先頭を奪った。

 諸刃の剣は鞘から抜かれた。

 レース後、豊騎手はタップダンスに対し、
 怒りを露にしていたが、哲三騎手は哲三騎手で
 出走した以上、勝つために力を尽くさねばならない。
 そして、現実に人気薄で2着に残っている以上、
 この騎乗は褒められこそすれ、非難されるものではない。

 この後の凋落振りは今さら語るまでもない。

 しかし、この馬が落ちぶれたわけではない。
 秋華賞、エリザベス女王杯までは
 とにかく相手が弱過ぎたのだ。
 そして、展開も向き過ぎたのだ。

 古馬になってからはG1こそ勝っていないが、
 展開が向いて、かつ相手も弱い
 阪神牝馬特別や札幌記念は勝っている。

 似たようなタイプとして
 ミッドタウンが挙げられる。

 そう言えば父親はともにディンヒルだし、
 気性的にとれる戦法が限られるところも
 よく似ている。

 2頭の成績を見ればわかる通り、
 能力的な壁にぶち当たっているにも関わらず、
 そう判断されずに人気になることが多い。

 この手の馬を見極めることができれば、
 馬券士としての格が一段上がる。


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